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「新しいシステムを導入したのに、なぜか現場の負担が減らない」
「部署ごとに違うツールを使っていて、データのやり取りがとにかく面倒」
「データはたくさんあるはずなのに、経営判断に活かせている気がしない」
デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるために、様々なシステムを導入している企業は多いですよね。ですが、実際のところ、上記のような悩みを抱えている企業も少なくありません。
もしかしたら、それは「部分最適のワナ」にはまってしまっているのかもしれません。
「部分最適のワナ」とは、それぞれの部署や業務に合わせて個別にシステムを導入していった結果、かえって非効率が生まれたり、全社的なデータ活用が進まなかったりする状況を指します。真のDXを実現し、ビジネスを成長させるためには、この「部分最適のワナ」から脱却し、システムと業務全体を見渡した改善が不可欠なのです。
この記事では、DX推進の妨げとなる「部分最適」の弊害と、システム連携・統合によって業務改善を進める具体的なステップについて、分かりやすく解説します。
目次
- なぜ「部分最適」がDX推進のブレーキになるのか
- サイロ化による弊害
- 二重入力
- 情報が不整合で全体像の把握が困難
- 部門間の非効率
- コミュニケーションコストの増加
- 業務プロセスの停滞
- データ活用機会の損失
- データ準備の煩雑さ
- 高度な分析の限界
- システムの陳腐化とブラックボックス化
- 改修が困難でコストもかさむ
- セキュリティリスク
- 競争力の低下
- 「部分最適」から脱却するシステム連携・統合による業務改善ステップ
- ステップ1:現状把握と課題特定
- 業務プロセスの可視化
- 既存システムの棚卸し
- 「あるべき姿」の定義
- ステップ2:システム連携・統合の計画
- 方針決定
- 方法1:API連携(システムの公式窓口を使う)
- 方法2:データ連携ツール(翻訳・通訳ツールを使う)
- 方法3:データ分析基盤構築(大きなデータ保管箱を作る)
- 方法4:ERP刷新(会社の土台システムを入れ替え)
- 詳細設計
- 体制構築
- ステップ3:実行と効果測定
- 段階的な導入(スモールスタート)
- 現場への教育・定着支援
- 導入効果の測定(KPI設定とモニタリング)
- まとめ:システムと業務改善の両輪でDXを推進しよう
なぜ「部分最適」がDX推進のブレーキになるのか

その場その場のニーズを踏まえて、良かれと思って導入したシステム。しかし、それぞれが連携できずに「部分最適」に陥ってしまうと、かえってDX推進の足かせになってしまうことがあります。
「部分最適」の状態は、日々の業務効率を低下させるだけでなく、データ活用の妨げとなり、将来的にさらに大きなリスクにも繋がりかねません。だからこそ、DX推進においては、この「部分最適」からの脱却が重要な鍵となるのです。
具体的に「部分最適のワナ」によってどのような問題が起こるのか、主な理由を見ていきましょう。
サイロ化による弊害
各部署や業務に合わせて導入されたシステムは、それぞれが独立した「サイロ(貯蔵庫)」のようにデータを抱え込み、組織全体でデータが分断されてしまうことがあります。これが「データのサイロ化」です。この状態は、主に以下のような問題を引き起こします。
二重入力
同じような情報を、あちこちのシステムに何度も入力し直していませんか?例えば、マーケティング部門で得た見込み客情報を、営業部門が再度入力し直す、といったケースです。
これは単純に入力の手間が二重にかかるだけでなく、営業部門のシステムに情報が入力されるまでにタイムラグが生じてしまい、情報の「鮮度」が損なわれてしまう懸念もあります。
さらに、入力ミスが発生するリスクもあるため、データのチェックや修正の手間もかかる可能性があります。このように、二重入力を放置すると、何重にも無駄や損失が発生してしまうリスクがあるのです。
情報が不整合で全体像の把握が困難
システムごとにデータの更新タイミングや管理ルールが異なると、「この顧客情報は最新か?」「在庫数は本当に合っているのか?」といった大切なことが瞬時にわからなかったり、情報の食い違いが発生しやすくなります。
重要なデータに齟齬(そご)があると、業務の混乱や誤った判断に繋がりかねません。
また、元になるデータが不完全だったり、集めるのに時間がかかったりしてしまっては、経営層がデータに基づいた意思決定を下そうとしても、適切な判断ができなくなってしまいます。
部門間の非効率
システムが繋がっていないことは、部門間のスムーズな連携をも妨げます。
コミュニケーションコストの増加
システム間でデータが自動でやり取りされないため、情報を伝えるためにメールやチャット、場合によっては紙の書類を用意したり、ミーティングを設定する必要が出てきます。
これでは時間がかかる上に、伝達漏れや認識のズレも起こりやすくなってしまうでしょう。「言ったはずなのに」「聞いていない」といった問題の原因にもなりがちです。
業務プロセスの停滞
システム間での連携ができていないと、ある部署の作業が終わらないと次の部署の作業が進められないという状況に陥りやすいです。ある部署が作業を終えたあとで、別のシステムにデータを移動させて別の部署が作業を行うという業務プロセスは、この情報連携の遅れがボトルネックとなり、全体のスピードを低下させることがあります。
実際に、「あの部署からのデータ待ちで作業が進められない」といった経験はないでしょうか。
データ活用機会の損失
DXの大きな目的の一つは、データを活用してビジネス価値を高めることです。しかし、データがサイロ化されている状態では、その貴重なデータを十分に活かすことができません。
データ準備の煩雑さ
いざデータを分析しようとしても、あちこちのシステムからデータを集め、形式を整え、綺麗にするクレンジング作業に膨大な時間と労力がかかってしまいます。
肝心の分析に取り掛かる前に疲弊してしまい、「結局、分析までたどり着けなかった」なんてことも少なくありません。
高度な分析の限界
部門を横断した多角的な分析や、AIを活用した将来予測など、DXで実現したい高度なデータ活用を行うには、統合され、整理されたデータ基盤が不可欠です。
データがバラバラの状態では、せっかくのデータもその真価を発揮できません。
システムの陳腐化とブラックボックス化
「部分最適」のまま長年使われ続けているシステムは、知らないうちに老朽化し、新たなリスクを生んでいる可能性もあります。
改修が困難でコストもかさむ
古い技術で作られていたり、度重なる改修で内部構造が複雑化(ブラックボックス化)してしまったりすると、少し機能を追加したり、不具合を修正したりするだけでも、時間とコストがかかってしまうようになります。
「このシステムの中身を誰も詳しく知らない」という状態は危険信号です。
セキュリティリスク
メーカーのサポートが終了した古いOSやソフトウェアを使い続けていると、セキュリティ上の弱点(脆弱性)を放置することになり、サイバー攻撃の標的となるリスクが高まります。
それだけでなく、情報漏洩などのインシデントが発生すれば、企業の信用問題にも発展しかねません。
競争力の低下
市場環境やビジネスモデルが変化しても、古いシステムが足かせとなって、新しい取り組みに対応できないことがあります。
結果として、企業の競争力低下を招く可能性も否定できなくなってしまうでしょう。
「部分最適」から脱却するシステム連携・統合による業務改善ステップ

では、どうすれば「部分最適」の状態から抜け出し、DXを推進できるのでしょうか?
ここでは、システム連携・統合による業務改善の具体的なステップをご紹介します。
ステップ1:現状把握と課題特定
まずは、自社の状況を正確に把握することから始めましょう。
業務プロセスの可視化
- 誰が
- いつ
- どのシステムを使って
- どのような業務を
- どれくらいの時間で行っているのか
これらの要素を洗い出します。部門間の情報の流れを図式化(業務フロー図などを作成)してみると、ボトルネックや非効率な部分が見えやすくなるでしょう。
このとき、現場の担当者へのヒアリングが非常に重要です。「実はこんなことで困っている」「もっとこうなれば良いのに」といった生の声に、改善のヒントが隠されています。
既存システムの棚卸し
社内で利用している全てのシステム(パッケージソフト、クラウドサービス、自社開発システム、Excel管理なども含む)をリストアップします。
それぞれのシステムの機能、利用部署、利用頻度、データの種類、他のシステムとの連携状況などを整理し、システムの導入時期や保守状況、コストなども把握しておきましょう。
「あるべき姿」の定義
現状の課題を踏まえ、DXによって何を実現したいのか、具体的な目標を設定します。
- 顧客満足度を〇〇%向上させる
- 間接業務のコストを〇〇%削減する
- データに基づいた製品開発サイクルを構築する
など、測定可能な目標を設定できると理想的です。
このとき、経営層から現場まで、関係者間で「あるべき姿」のイメージを共有することが重要となります。
ステップ2:システム連携・統合の計画
現状の課題と目指すべき「あるべき姿」が見えてきたら、次は具体的なシステム改善の計画を立てるフェーズに移ります。「部分最適」の状態から脱却するために、「どのようにシステムを連携・統合していくか」「そのために何が必要か」を具体的に決めていきましょう。
計画段階でしっかり方向性を定めることが、後の工程をスムーズに進める鍵となります。
方針決定
ここでは、プロジェクトの大きな方向性を決めます。「どのシステムから改善に着手するのか(対象)」と、「どうやって連携・統合するか(方法)」の2点を明確にしましょう。
まず、ステップ1で見えた課題をもとに、どのシステムから改善していくかを決めます。全てのシステムを一度に変えるのは難しいため、影響の大きさや改善効果(費用対効果)を考えて、優先順位をつけることが大切です。「まずはここから」という対象を絞り込みましょう。システム連携だけでなく、古いシステムの刷新(入れ替え)が必要な場合もあります。
次に対象システムを「どうやって」連携・統合するか、具体的な方法を選びます。難しく考えず、「データの流れを良くするための手段」を選ぶと考えましょう。このとき選ぶべき、主な方法は次のようなもの、あるいは複数の組み合わせを選ぶと良いでしょう。
方法1:API連携(システムの公式窓口を使う)
システム同士を直接繋ぎ、リアルタイムに近いデータ連携を実現します。
主に、特定システム間で、データを素早く自動でやり取りしたい時(例:WEB問い合わせを顧客管理へ自動登録)などに利用されます。
方法2:データ連携ツール(翻訳・通訳ツールを使う)
異なるシステム間で、データの形式を変換したり、複雑な連携を仲介したりします。
これは、複数の異なるシステム間で、データをスムーズに連携させたい時。データの形を整えたい時に有効です。
方法3:データ分析基盤構築(大きなデータ保管箱を作る)
社内の様々なデータを一箇所に集約・保管し、分析しやすい状態にします(DWH/データレイク)。これは、全社データを統合して、経営分析などにしっかり活用したい時に有効となります。
方法4:ERP刷新(会社の土台システムを入れ替え)
販売・在庫・会計など、会社の基幹業務システム全体を、統合された新しいものに入れ替えます。これは、比較的大規模な業務改善の際に有効で、基幹業務の非効率を根本から解消し、データを一元管理したい時に検討すると有効です。
詳細設計
連携・統合の具体的な方法が決まったら、次はより詳細な設計図を描いていきます。これは、「どのシステムの、どのデータを、どのくらいの頻度(リアルタイム、1日1回など)で、どのように連携させるのか」といった具体的なルール(仕様)を明確に定義する作業です。
例えば、顧客データなら、氏名、会社名、連絡先など、どの項目を連携対象とするか、といった具合です。
また、システム間でデータの形式(フォーマット)や項目名を表すコード体系などが異なる場合は、それらを統一するルールもここでしっかり決めておくことが重要です。ここを曖昧にしてしまうと、後々「データがうまく連携されない」「連携されたけど意味が分からない」といったトラブルの原因になりかねません。
体制構築
システム連携・統合は、専門的な知識や技術が必要になることが少なくありません。自社だけで進めるのが難しいと感じたら、無理せず外部の力を借りることも考えましょう。システム開発会社やITコンサルティング会社など、専門知識を持つ外部パートナーの協力が必要になる場合があります。
パートナーを選ぶ際は、単に技術力があるかだけでなく、「自社のビジネスや課題をしっかり理解してくれるか」「過去に類似のプロジェクト実績があるか」「コミュニケーションはスムーズか」といった点も考慮することが大切です。信頼できるパートナーは、プロジェクトを成功に導くための強力な味方になってくれます。
ステップ3:実行と効果測定
計画に基づき、システム連携・統合を実行に移します。このステップを進めるうえでの注意点は、主に次のとおりです。
段階的な導入(スモールスタート)
いきなり大規模な変更を行うのではなく、特定の部門や業務から試験的に導入し、効果を確認しながら段階的に範囲を広げていく方法が、リスクを抑えやすいためおすすめです。
現場への教育・定着支援
新しいシステムや業務プロセスを導入する際は、現場の担当者への丁寧な説明とトレーニングが不可欠です。導入目的やメリットをしっかり伝え、変化に対する不安を取り除くことが定着の鍵となります。
導入効果の測定(KPI設定とモニタリング)
計画段階で設定した目標(KPI:重要業績評価指標)に基づき、導入後の効果を定期的に測定・評価します。
「作業時間がどれくらい短縮されたか」「ミスがどれくらい減ったか」「顧客からの反応はどのように変化したか」などを定量・定性の両面から評価し、必要に応じて改善を繰り返しましょう。
まとめ:システムと業務改善の両輪でDXを推進しよう
DX推進において、システム導入はゴールではなくスタートです。導入したシステムが「部分最適」に陥っていないか、常に全体を見渡し、連携・統合を進めることで、初めてその真価を発揮します。
今回ご紹介したステップを参考に、ぜひ一度、自社のシステム活用状況や業務プロセスを見直してみてはいかがでしょうか?「部分最適」から脱却し、システムと業務改善を両輪で進めることが、DX成功への確かな一歩となるはずです。
DX推進におけるシステム戦略の見直しや、具体的なシステム連携・統合、業務改善の進め方について、何から手をつければ良いか分からない、専門家の意見を聞きたい、といったお悩みはありませんか?
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