AIを「使う」から、AIに「覚えさせる」へ|企業のAI活用が次に向かう場所

AIを「使う」から、AIに「覚えさせる」へ|企業のAI活用が次に向かう場所

「現場にAIを使わせてはいるが、毎回『うちは法人向けの工事会社で、A社には値引きなしの契約で、前回の見積もりはこの単価で』と、会社の前提を一から説明し直すのに時間がかかる」

「効率化のためにAIを導入したはずが、前提を書き直す手間が増えたように感じる」

生成AIを全社的に導入した経営者から、このような相談をよく受けます。

個人で使うぶんには、この手間は減らせます。ChatGPTなどには利用者の情報や過去のやり取りを記憶する機能があり、一度伝えたことは次から前提として扱ってくれるからです。ところが、この記憶は多くの場合「個々の利用者とのやり取り」に結びつくものです。

  • 複数の担当者が同じ業務でAIを使う
  • 顧客や案件ごとに前提が違う
  • 社内ルールや過去の判断を全員で共有したい

こういった企業の使い方になると、個々の利用者向けの記憶機能だけでは不十分です。解決の手段は、賢いAIを選んで単純に「使う」ことよりも、自社の情報や経緯を「組織の記憶」としてAIに「覚えさせる」形に整えることです。

この記事では、2026年7月にGensparkが発表した「SecondBrain」という機能を手がかりに、企業のAI活用が次に向かうべき方向と、日本の中小企業が今から取るべき方針を解説します。この記事を読めば、「どのAIを導入するか」という性能比較から抜け出し、貴社が何から着手すればよいのか、その順序が見えてくるはずです。

【本記事の要点】

  • 生成AIで仕事が速くならないのは、AIが文脈を保持しない構造によるもの
  • Gensparkの「SecondBrain」は、散らばった仕事情報をAIの記憶として束ね直す試み
  • AIに記憶を持たせる動きは、Gensparkだけのものではない
  • 中小企業は「何を覚えさせるか」の棚卸しから、小さく始められる

目次

  1. なぜ「AIを使っているのに、仕事が速くならない」のか
  2. 個人の記憶機能は、組織では回らない
  3. 情報が人とツールに散らばっている
  4. 「使う」が個人の作業で止まっている
  5. Gensparkが示した次の一手:「覚えるAI」という発想
  6. 散らばった仕事情報を1つの記憶に束ねる
  7. フォルダ管理をやめ、AIが自動で整理する
  8. 会議の前後をつなぐ
  9. 製品選びの前に、自社の「覚えさせる中身」を決める
  10. 記憶は「個人向け」から「組織向け」へ広がり始めている
  11. 問われるのは「AIに渡せる情報が社内で整っているか」
  12. AIに記憶を「覚えさせる会社」になる4ステップ
  13. ステップ1 何を覚えさせるかを棚卸しする
  14. ステップ2 AIが読める形に整える
  15. ステップ3 1つの業務で小さく試す
  16. ステップ4 効果を見てから横に広げる
  17. 「使う」に逆戻りする3つのNG行為
  18. ツールだけを乗り換え続ける
  19. 個人任せにして組織で共有しない
  20. いきなり全社・全業務に広げる
  21. まとめ:これからの差は「どのAIを使うか」ではなく「何を覚えさせているか」

なぜ「AIを使っているのに、仕事が速くならない」のか

散らばった資料を毎回集め、初期状態のAIへ前提を入力し直す担当者のイラスト

生成AIを導入した企業から届く相談は、業種が違ってもよく似ています。AIは確かに役立っているのに、手間と業務時間が減らない、といったものです。その理由は次の3つに整理できます。

個人の記憶機能は、組織では回らない

生成AIにも、過去のやり取りや利用者の情報を記憶する機能はあります。ただ、それは「個々の利用者とのやり取り」に限られます。担当者Aが自分のアカウントで覚えさせた前提は、同じAIサービスを別のアカウントで使う担当者Bには引き継がれません。かといって1つのアカウントを全員で使えば、今度は担当者ごと・顧客ごとの前提が1つの記憶に混ざってしまいます。

そもそも、顧客ごと・案件ごとに前提が変わる仕事では、AIに何を記憶させるかを決めきれないのではないでしょうか。結局、業務で使う際には「自社の事業内容」「これまでの経緯」「判断の基準」を、その都度プロンプトに書き足すことになり、この入力の往復が、手間を増やしてしまうのです。

情報が人とツールに散らばっている

意思決定に必要な材料は、メール、議事録、チャット、表計算、そして担当者の頭の中に分かれて存在します。AIに的確な答えを求めるほど、人はあちこちから情報を集めてプロンプトに貼り付ける手作業を強いられます。しかし、情報を集める手間が人に残っている限り、AIは「速い清書ツール」の域を出ません。

「使う」が個人の作業で止まっている

多くの企業では、生成AIの利用は個人ベースです。ある社員が上手な使い方を見つけても、その工夫が共有されないまま、隣の席では同じ試行錯誤が続く。つまり、組織として学習が積み上がらないため、全社的には生産性の変化が見えにくいのです。

中小企業基盤整備機構が2026年3月に公表した調査では、調査の対象となった全国の中小企業10,000社のうち、AIを導入済みの中小企業はおよそ2割に留まり、導入済み企業が使っているAIは生成AIが最も多いとされています。日本でもAI導入のフェーズは進みつつありますが、多くの現場はまだ「個人が生成AIを使う」段階から抜け出せていない、と読み取ることができるのではないでしょうか。

【出典・参照】

Gensparkが示した次の一手:「覚えるAI」という発想

メールや議事録などの仕事情報が一つの記憶に集まり、会議前後の業務へつながる図

こうした「毎回AIへの情報共有が振り出しに戻る」という課題の解決を目指したのがGensparkです。2026年7月に発表された「AIワークスペース 6.0」の中心には、「SecondBrain(第二の脳)」という機能が置かれています。同社の説明をもとに、SecondBrainのポイントを3つ挙げます。

散らばった仕事情報を1つの記憶に束ねる

SecondBrainとは、メール、議事録、資料、顧客管理システムなどに散在する仕事の情報を統合し、クラウド上の単一の記憶として持ち続ける「AI記憶レイヤー(パーソナルメモリシステム)」という仕組みです。GensparkのCEOは、その狙いを「個人の知識を索引化し、話しかけられる存在にする」と表現しました。つまり、担当者が長い前提を書き直さなくても、AIの側が文脈を保持している状態をつくるシステムと解釈してよいでしょう。

フォルダ管理をやめ、AIが自動で整理する

従来のナレッジ共有ツール、たとえばNotionやObsidianなどは、フォルダ構成やタグ付けという人の手による管理が前提でした。SecondBrainは、この整理をシステム側が自動で更新するように設計されました。これは、情報をフォルダにしまって人が探しに行く形から、AIが必要なときに自分で引き出して仕事に使う形へ変える、という発想です。

会議の前後をつなぐ

同社はSecondBrainの具体的な使い方として、会議前に過去のやりとりと関連資料を踏まえたブリーフィングを用意し、会議後にはフォローアップのメール案を自動で作る、といった流れを挙げています。ここからは、AIの仕事を「点」で終わらせず、前後の文脈でつないだ「線」として捉えるといった狙いが読み取れます。

なお、Gensparkは日本市場を有望と位置づけ、今後3年間で1億ドル(約160億円)規模の投資を計画すると発表しています。同時に、会議録音用の小型端末「SecondBrain Note」も投入しました。Gensparkは、AIが仕事の情報を覚え続ける仕組みそのものに、これだけの投資をする価値があると見ていることがうかがえます。

【出典・参照】

製品選びの前に、自社の「覚えさせる中身」を決める

毎回情報を渡す単発利用と、整理した社内情報をAIと継続共有する利用を左右で比べた図

AIが自社の情報を覚えたうえで使われるようになる。SecondBrainは、その流れに沿った製品のひとつにすぎません。日本の中小企業が、自社の方針を考える上で押さえておきたい変化は次の2つです。

記憶は「個人向け」から「組織向け」へ広がり始めている

対話型AIの多くが、利用者の情報や過去のやり取りを覚える機能を持つようになりました。ただし前述のとおり、その多くは個々の利用者とのやり取りに基づく記憶です。SecondBrainのように、チームや組織の情報をまとめて扱えるようにする仕組みも登場しています。この流れが続けば、「AIが自社の文脈を持っているのが前提」という状態で業務を組み直す時期が来ると予想されます。

「AIを使う」段階と「AIに覚えさせる」段階では、日々の仕事の進み方が変わります。

AIを「使う」段階AIに「覚えさせる」段階
準備指示のたびに前提を書く一度整えた文脈をAIが保持する
情報のありか人が集めて貼り付けるAIが社内の情報を参照する
学びの蓄積個人の中でとどまる組織の記憶として残る
成果を分けるものどのツールが賢いか何を覚えさせているか

問われるのは「AIに渡せる情報が社内で整っているか」

AIが自社の情報を覚えて仕事に使えるようになるほど、成果を左右するのは、AIに何を覚えさせるかです。たとえば、次のような情報が社内に整理された形で残っているかが問われます。

  • 事業の方針
  • 過去の判断とその理由
  • 顧客ごとの経緯
  • 進行中の案件

これらが特定の社員の頭の中だけにある状態では、どれだけAIが賢くなっても社内でその情報は活用されません。AIの性能が上がるほど、自社の情報整理の遅れがそのまま成果の差になって表れるのです。AI活用の議論の軸は、ツールの性能比較から、自社の情報の持ち方の見直し方へと移っていくのです。

AIに記憶を「覚えさせる会社」になる4ステップ

情報の棚卸し、整形、小さな試行、横展開へ進む4段階を示した図

では、あなたの会社は何から始めればよいのでしょうか。いきなり大がかりなシステムを導入する必要はありません。まずは、次の4つのステップからはじめてみましょう。

ステップ1 何を覚えさせるかを棚卸しする

まず、AIに渡したい情報を書き出します。

  • 会社案内で足りるのか
  • 主要顧客の一覧や取引の経緯が必要か
  • 社内ルールや過去の見積り基準まで含めるか

業務ごとに「AIが知っていれば説明を省ける情報」を洗い出すと、対象がはっきりしてくるでしょう。この作業は、DX推進では欠かせない「属人化している暗黙知を言葉にする」機会にもなります。

ステップ2 AIが読める形に整える

棚卸しした情報を、AIが参照できる形式にそろえます。

  • バラバラのファイル名を統一する
  • 古い版と最新版を分ける
  • 担当者しか読めない略語に注釈を付ける

それらは、一見すると地道な資料整理です。しかし、手間はかかりますが、ここを飛ばすとAIは古い情報や矛盾した情報を平気で引用してしまうため、絶対に飛ばすことのできないステップです。

ステップ3 1つの業務で小さく試す

全社に広げる前に、範囲を1つの業務に絞って運用します。

  • 見積もり作成
  • 問い合わせの一次対応
  • 議事録の要約

多くの場合、このような繰り返し発生してルールが比較的はっきりしている業務が向いています。たとえば見積もり作成を選ぶなら、最初にAIへ渡す情報は、過去の見積もり条件と単価の考え方だけに絞ります。そのうえで、効果的なAIの使い方と、人が最終確認すべき箇所を見極めておきます。ここで得た勘どころが、他の業務にもAIの活用を広げるときの指針になります。

ステップ4 効果を見てから横に広げる

ある業務で時間の短縮や品質の安定が確認できたら、隣の業務へ広げます。このとき、ステップ1から3をそのまま次の業務でも回し、一度に多くを変えないことが、現場の混乱と手戻りを防ぎます。

人手不足や業務の属人化は、中小企業がよく抱える課題です。「AIに覚えさせる」取り組みは、とくに属人化の解消につながります。これまで特定の担当者の頭の中にあった知識を、AIと組織が共有できる形に置き換えていくからです。そう考えると、手間をかける意味が見えてくるのではないでしょうか。この4ステップは、特別なツールがなくても、共有ドキュメントの整備と運用ルールづくりから着手できるため、ぜひ貴社でも試してみてください。

【出典・参照】

「使う」に逆戻りする3つのNG行為

端末の乗り換え、担当者の孤立、無秩序な全社展開という3つの行き止まりを示す図

一方で、せっかくの取り組みが「その場限りのAI利用」に戻ってしまうことは少なくありません。その理由の多くは、進め方のどこかで無理をした結果です。ここでは、逆戻りしてしまう代表的なパターンを3つ紹介します。

ツールだけを乗り換え続ける

新しいAIが話題になる度に使用するAIを変えていると、覚えさせた情報も運用ルールも毎回リセットされます。ツールの新しさよりも、自社の文脈が蓄積していくことを優先したほうが、結果として成果を得るスピードも速くなります。

個人任せにして組織で共有しない

使い方の工夫を各自の裁量に委ねたままにすると、学習が個人でとどまります。うまくいったプロンプトや手順を共有する場を、小さくて良いので用意しておきましょう。

いきなり全社・全業務に広げる

最初から対象を広げると、古い資料や内容が食い違う資料まで一度にAIへ渡すことになります。AIが誤った回答をしたとき、元の資料が悪いのか、渡し方が悪いのか、どこから直せばよいか分からなくなりがちです。範囲を絞り小さく始め、1つずつ確かめてから広げる。この順番を守るだけで、失敗の多くは避けられます。

まとめ:これからの差は「どのAIを使うか」ではなく「何を覚えさせているか」

生成AIで仕事が速くならないのは、使い方が下手だからではありません。AIにあなたの会社の情報をうまく渡し、記憶として残す形が整っていないからです。Gensparkの「SecondBrain」は、その状況を変えようとする取り組みのひとつです。また、ChatGPTのように、AIが利用者の情報を覚える機能も広がっているように、AIに記憶を持たせる動きは、Gensparkだけのものではないのです。

そんな流れの中で、貴社がやるべきことは、賢いツールを探し続けることではありません。

  1. AIに覚えさせたい情報を棚卸しする
  2. 読める形に整える(言語化する)
  3. 1つの業務から試す
  4. 成果を見て横展開する

たったこれだけです。そして、この順番で進めることができれば、AIの進化に振り回されず、自社のペースで活用を積み上げられるはずです。

AIツールは今後も変化していきます。その中でも、自社の方針や過去の判断、顧客情報などを整理し、AIが参照できる形にしておくことは、ツールが変わっても活かせる基盤になります。その基盤さえしっかりしていれば、次に新しいAIが出ても使いこなすまで時間もかからないでしょう。

株式会社MUは、社内に散らばった情報の棚卸しや、業務プロセスの整理、生成AIを前提とした業務設計の伴走を行っています。AIを導入したものの手応えが薄い、何から手をつけるべきか迷っている、というお悩みをお持ちでしたら、お気軽に株式会社MUにご相談ください。

筆者プロフィール

MU編集部

MU編集部

株式会社MU / 編集部
「お客様と共に前進するデジタルパートナー」をキーメッセージに掲げ日々、DX推進企業としてデジタルトランスフォーメーションを推進。
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