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「あきらめなければ夢は叶う」
そんな精神論が通用しないのと同じように、DXも「とにかくやればなんとかなる」というものではありません。「勢いでDX推進に踏み出したものの、いつまで経っても成果が上がらない」という事例は日本中に溢れています。何とか成功させようと、次々とツールを入れ替えてみたり、新しいサービスと契約したりと試行錯誤してみるものの、状況は一向に改善せず、コストばかりが膨らんでいく……という話も決して珍しいものではありません。
DXとは、単なるデジタル化ではなく、「デジタル技術とデータを活用し、既存のモノやコトを変革させ、新たな価値創出で人々の生活をより良くすること」を指します。その成功は簡単なものではなく、時間的にも金銭的にもそれなりのリソースを投入することが必要です。
しかし、結果が出ないまま、時間やお金ばかりがかかってしまう状況は、特にリソースが限られている中小企業経営者にとっては看過できない問題です。そのうえ、その投資の先に、DXの成功が待っていない可能性すらあるとすれば、DX推進が企業にとって大きなリスクになってしまいかねません。
「DXに取り組みたいけど、あきらめた」
「これ以上、リスクが大きくなる前に撤退した方がいいのでは……」
そう考える経営者がいるのは当然のことです。
とはいえ、失敗事例もある一方で、戦略的にDXに取り組んで、投資した時間やお金を大きく上回る成果をあげている企業も多数あります。では、なぜ成功者は困難な状況でもあきらめずに成果を出せるのでしょうか?
その秘密は、ケンタッキーフライドチキンのカーネル・サンダースや発明王エジソンの逸話に隠されています。彼らが実践した「行動リスト」の考え方を紐解き、中小企業がDXを成功させるためのヒントを探っていきましょう。
目次
「あきらめない」を補う成功者が持つ「行動リスト」の力

私たちは、成功ができない理由を考えるときに、「あきらめやすい性格だから」「気力が続かないから」など、自分の内面的な弱さに目を向けがちです。しかし、ベストセラー『すごい言語化』の著者である木暮太一氏は、成功できない理由を「根性論にしてはいけない」と断言します。
成功している人たちが人一倍根性があるかというと、必ずしもそうではありません。自分の分野で大きな成功を収めている人が、例えばマラソンやダイエットなど他のことでは早々にあきらめてしまうケースも少なくないはずです。このように考えてみると、確かに木暮氏の言う通り、「根性があるか」は、「成功できるか」とは直結していないことがわかるでしょう。
では、成功者とそうでない人を分けるものは何なのでしょうか?それは、根性よりも、具体的な「行動リスト」を持っているかどうか、にあります。
行動リストとは、目標を達成するために具体的に「すべきこと」のリストのことです。このリストがあることで、人は目標を実現するために、着実にステップアップしていくことができるようになります。
ここで重要なのは、具体的な行動に移せる形で一つ一ひとつのやるべきことを言語化することです。
「いつかおしゃれなカフェを経営したい」
「有名になってテレビに出たい」
こうした漠然とした目標があるだけでは、具体的な行動に結び付けることができず、すぐに「何をしたらいいかわからない」という状態に陥り、行動が止まってしまいます。
ポイントは、能力や頭の良さ、センスではなく、「どれだけ具体的な行動リストを言語化し、実行できるか」です。
カーネル・サンダースとエジソンに学ぶ「行動リスト」の実践力

成功者たちの偉業は、しばしば「諦めない心」や「並外れた努力」という言葉で片付けられがちです。しかし、その裏側には、途方もない量の具体的な「行動リスト」が存在しました。
カーネル・サンダースの飽くなき「営業行動リスト」
ケンタッキーフライドチキンを65歳で創業したカーネル・サンダース。彼が世界的なフライドチキンチェーンを築き上げたことは、年齢を言い訳にしないチャレンジ精神の象徴として語られます。しかし、彼の成功は単なる根性論で片づけられる話ではありません。
カーネル・サンダースは、自身のフライドチキンのレシピを売り込むため、車で全米を回り、レストランに飛び込み営業をしました。その営業回数は、なんと1000回以上と言われています。
これは、彼が「フライドチキンの事業を成功させる」という漠然とした夢だけでなく、
「Aというレストランに事業計画書を持って営業に行く」
「Bというレストランに試食してもらう」
「Cというレストランからのフィードバックを元に提案内容を修正する」
こうした、具体的な「行動リスト」を無限に持っていたことを意味しています。
たとえ今日の営業が失敗しても、彼の中には「明日はDというレストランに行こう」「次はこんな提案をしてみよう」という次の行動が明確に言語化されていたのです。
その「策」が尽きなかったからこそ、彼は1000回以上の失敗にもめげずに、ついに最初のビジネスパートナーであり、レシピの購入者でもあるユタ州のサンドイッチ店経営者、ピート・ハーマンと出会うことができたのです。
エジソンの尽きることない「実験行動リスト」
「天才とは1%のひらめきと99%の努力である」という言葉で知られる発明王トーマス・エジソン。彼が電球を発明するまでに1万回以上も失敗したという逸話は、多くの人々に努力の尊さを教えてきました。
しかし、ここでも注目すべきは、彼の「諦めない心」だけではありません。1万回失敗したということは、彼が1万種類もの異なる素材や構造を試すという、具体的な「実験行動リスト」を持っていたことを意味します。
「この素材でフィラメントを作ってみよう」
「この電圧で試してみよう」
「この真空度で実験してみよう」
次から次へとこれらの新しい「策」を思いつき、それを実際に試すという行動を続けたからこそ、彼は最終的に白熱電球の発明にたどり着くことができたのです。
もし彼が「これ以上何を試せばいいかわからない」と「行動リスト」が尽きてしまっていたら、世紀の発明は生まれなかったでしょう。
中小企業がDXを成功させるための「行動リスト」実践ガイド

カーネル・サンダースやエジソンの逸話から学ぶべきは、目標達成のために具体的な「行動リスト」を言語化し、そのリストが尽きない限り行動し続けるという姿勢の重要性です。これは、限られたリソースでDXを推進する中小企業にとって、非常に重要な視点です。
DX推進に必要な「行動リスト」とは、単にツールを導入するだけでなく、導入後の運用方法、従業員への教育、効果測定と改善策の検討など、多岐にわたります。これらを具体的に言語化し、一つずつ実行していくことが、DXを成功に導く唯一の道筋なのです。
ここでは、中小企業でも実践可能なDX推進のステップと、それぞれの段階で言語化すべき「行動リスト」について具体的に見ていきましょう。
ステップ1:現状把握と課題の特定
DXの第一歩は、自社の現状を正確に把握し、デジタル化によって解決したい具体的な課題を特定することです。漠然と「DXが必要だ」と考えるのではなく、「何に困っているのか」「どこを改善したいのか」を明確にしましょう。
【具体的な行動リストの例】
既存業務の洗い出し
- 経理業務の洗い出し:月末の請求書発行や経費精算にかかる時間を計測する
- 営業業務の洗い出し:顧客情報の入力や日報作成にかかる時間を計測する
- 製造・物流業務の洗い出し:在庫管理や生産計画の進捗を紙で管理している部分はないか確認する
部門横断でのヒアリング
- 営業担当者へのヒアリング:顧客とのやり取りで、情報共有の遅れや属人化によって不便を感じている点はないか質問する
- 経理担当者へのヒアリング:手作業によるデータ入力や書類の保管で、ミスや非効率が発生している点はないか質問する
- 製造現場の担当者へのヒアリング:紙のチェックリストや日報記入で、無駄な作業が発生していないか質問する
顧客の声の収集
- カスタマーサポート部門からのヒアリング:問い合わせの多い内容や、解決までに時間がかかる課題についてヒアリングする
- 営業担当者からのヒアリング:商談中に顧客から頻繁に出る要望や、競合他社と比較して自社が劣っている点についてヒアリングする
競合他社の動向調査
- 競合他社のウェブサイトを確認:オンラインでのサービス提供や、顧客向けのデジタルコンテンツがあるか調べる
- 業界ニュースやレポートの確認:同業他社が導入した新しいシステムや、DXに関する成功事例・失敗事例をリサーチする
課題の優先順位付け
- 最も効果が見込める課題の特定:例えば、「手作業によるデータ入力」をデジタル化した場合、年間でどれだけの時間削減効果が期待できるかを試算する
- 緊急性の高い課題の特定:例えば、「顧客情報共有の遅れ」が原因で、失注や顧客離れが頻繁に起こっている場合、最優先で解決すべき課題としてリストアップする
ステップ2:目標設定と戦略立案
特定した課題を解決するために、具体的なDXの目標を設定し、それを達成するための戦略を立てます。ここでも、「行動リスト」を意識して、達成可能な目標と具体的なアプローチを考えてください。
【具体的な行動リストの例】
具体的な目標の設定
- 経営層とDX推進チームで、「〇〇業務の時間を3ヶ月以内に20%削減する」といった、数値で測れる目標を定める
- 目標達成の責任者を明確にし、週次または月次で進捗を確認するミーティングを設定する
達成までのロードマップ作成
- 目標達成に向けた3ヶ月間のフェーズを計画する。例えば、「1ヶ月目:ツールの選定」「2ヶ月目:試験導入と操作研修」「3ヶ月目:全社展開」といった形でフェーズを区切る
- 各フェーズで達成すべきタスクと、その完了予定日をリストアップする
必要なデジタル技術の調査
- ロードマップの「ツールの選定」フェーズに合わせ、チームメンバーが、課題解決に役立つSaaSツール(例:クラウド会計ソフト、CRM、プロジェクト管理ツール)を3つ選定する
- 選定したツールについて、無料トライアルの有無、料金体系、サポート体制などを比較検討し、評価シートを作成する
予算の策定
- 選定したツールの中から、最適なものを選び、導入費用(初期費用、月額費用など)、運用にかかる人件費、外部ベンダーへの依頼費用などを算出し、経営層に承認をもらう
担当者の選定
- DX推進の中心人物として、各部署からITツールに詳しい担当者(推進役)を1名ずつ選出する
- 外部の専門家(ベンダー)に協力を仰ぐ場合は、自社とベンダーの役割分担を明確にし、誰がどの業務を担当するかを文書化しておく
ステップ3:小さく始めて効果を検証する
発明王エジソンが1万回以上の実験を繰り返して電球を完成させたように、DXもまた、一度で成功するものではありません。まずは特定した課題の中でも特に効果が見込まれる部分から、小さく始めて効果を検証するPoC(概念実証)やスモールスタートが有効です。これは、失敗を恐れずに試行錯誤を繰り返すための、リスクを抑えた賢い戦略です。
【具体的な行動リストの例】
特定の課題に対するツールの試験導入
- 営業部門の顧客管理に課題がある場合、まずは無料トライアルが可能なCRMツールを1つ選定し、30日間試用する
- 営業担当者の中から3名をモニターに選び、ツールの使い勝手や、既存の課題がどれくらい解決されるかを検証する
パイロット部署での導入
- ツールの本格導入に先立ち、まずは営業部のAチームで先行導入し、1週間に1度、運用上の課題や改善点について話し合う定例ミーティングを設定する
- 経理部の請求書発行業務を効率化するために、クラウド会計ソフトを導入し、手作業での作業時間を1日ごとに記録する。
効果測定指標の設定とデータ収集
- ツール導入前に、「顧客情報の入力時間を50%削減する」といった具体的なKPIを設定する
- 導入後は、設定したKPIを週次で計測し、誰が、どのデータを、いつまでに集めるかを明確に決めておく
従業員からのフィードバック収集
- 導入したツールの満足度を測るため、無記名のアンケートを作成し、パイロット部署の従業員全員に協力を依頼する
- アンケートの自由記述欄で得られた「入力画面がわかりにくい」「必要な機能が足りない」といった具体的な意見をすべて記録する
改善点の洗い出しと修正
- 収集したデータやフィードバックを基に、運用上の課題やツールの設定で改善すべき点を優先順位をつけてリスト化する
- 例えば、「入力項目が多すぎる」というフィードバックが多ければ、必要最小限の項目に絞り込む設定変更を行う
ステップ4:全社展開と継続的な改善
PoCやスモールスタートで効果が確認できたら、その成功事例を基に全社展開を進めます。エジソンが電球の改良を続けたように、DXは一度導入すれば終わりではなく、継続的な改善が不可欠です。市場や技術の変化に対応し、常に次の「行動リスト」を生み出し続けましょう。
【行動リストの例】
全社への展開計画の策定
- DX推進チームで、パイロット部署での成功事例(例:顧客情報入力時間20%削減)を、他の部署にどのように広げるか、具体的なスケジュールを作成する
- 全社展開の対象部署や時期を明確にし、導入の優先順位を決める
従業員への説明会・研修の実施
- 各部署のリーダーと連携し、導入するツールの目的と使い方を説明するオンライン説明会を企画し、実施する
- マニュアルやよくある質問集(FAQ)を作成し、いつでも従業員が確認できる共有フォルダに保存する
導入後のフォローアップ体制の構築
- ツール導入後の疑問やトラブルに対応するため、社内ヘルプデスクを設置し、担当者を明確にする
- ツール提供元のカスタマーサポートとの連絡窓口を定め、トラブル発生時の対応フローを文書化しておく
定期的な効果測定とレポーティング
- 毎月、事前に設定したKPI(例:請求書発行業務の作業時間、営業担当者の移動時間)を計測し、数値の変化をレポートにまとめる
- レポートを基に、経営層や各部署のリーダーと進捗を確認し、課題や次のアクションについて議論する
市場の変化や技術トレンドのキャッチアップ
- DX推進チームが、業界レポートやIT関連のニュースサイトを毎週チェックし、新しいデジタルツールや技術トレンドをキャッチアップする
- 自社のDX戦略に活かせる情報があれば、チーム内で共有し、次のアクションに繋げる
新たな課題の発見と次の「行動リスト」の作成
- 効果測定やヒアリングを通じて見えてきた、新たな非効率な業務や課題をリストアップする
- リストアップした課題の中から、DXで解決できそうなものをピックアップし、再びステップ1から新しい「行動リスト」を作成し、改善サイクルを回す
まとめ:あなたの「行動リスト」を言語化しDXで未来を切り拓こう
中小企業がDXを成功させるためには、「あきらめない」という精神論だけでなく、具体的な「行動リスト」を言語化し、一つずつ着実に実行していくことが不可欠です。
カーネル・サンダースやエジソンが途方もない数の「行動リスト」を実行し続けたように、まずは自社の現状と課題を明確にし、解決したい目標を設定しましょう。そして、小さく始めて効果を検証し、その成功体験を次に繋げていく。この繰り返しこそが、限られたリソースの中でも大きな成果を生み出す秘訣となります。
DX推進は、貴社の未来を切り拓くための重要な投資です。具体的な「行動リスト」を持つことで、漠然とした不安は具体的な実行計画へと変わり、貴社独自のDX戦略が動き出します。
株式会社MUは、貴社のDX推進における「行動リスト」の言語化を支援し、Webサイト制作、システム開発、マーケティング支援を通じて、貴社のビジネス変革を強力に後押しします。
DXに関するお悩みやご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。貴社の「行動リスト」を一緒に明確にし、着実に未来を切り拓いていきませんか?
【参考文献】
木暮太一著『人生は「言語化」すると動き出す』(フォレスト出版)
木暮太一(こぐれ たいち):言語化コンサルタント・作家・(一社)教育コミュニケーション協会 代表理事。14歳から、わかりにくいことをわかりやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何も伝わっていない状況」を多数目撃し、伝わらない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。著作累計65冊、累計190万部突破。